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不法投棄(産業廃棄物処理法)に関する基礎知識や事例

Basic knowledge and Examples

■産業廃棄物処理法(廃掃法)の規制構造
廃棄物処理法では,「物」を有価物と廃棄物に分類し,廃棄物を一般廃棄物(一廃)と産業廃棄物(産廃)とに分類したうえ,一廃は(普通の)一廃(普通物)と4種類(大まかな分類です。)の「特別管理一般廃棄物」とに区分し,産廃は20種類(同法で直接定められた6種類と政令で定められた14種類)の普通の産廃(普通物)と,4種類(これも大まかな分類です。)の「特別管理産業廃棄物」とに区分しています。
なお,普通の産廃20種類のうち,燃え殻,汚泥,廃油…等11種類はどのような業種から排出されても産廃とされますが,その他の9種類は特定の業種から排出された場合のみ産廃とされます。例えば,紙くずは,建設業,パルプ,紙又は紙加工品の製造業,新聞業,製本業及び印刷物加工業等の紙を扱う業種から排出された場合にのみ産廃とされ,その他の業種から排出されても事業系一般廃棄物と扱われます。

そして,廃棄物処理法では,前述のように廃棄物の種類を区分したうえ,取り扱う廃棄物の種類毎に,また,事業活動を行う地域毎に都道府県知事(政令市の場合は市長)の許可を受けなければならず,更に,処理施設についても別途使用許可を受けなければならないこととされております。
このため,許可を受けた種類ではない廃棄物を処理したり,許可を受けている地域外で事業活動を行ったりすると無許可営業となってしまいます。
例えば,廃東京都知事の許可を得ている産業廃棄物の収集運搬業者であっても,政令市である八王子市長の許可がなければ同市内では収集運搬ができないのです。

他方,廃棄物処理法上,産廃処理の責任は排出事業者が負っており,産廃以外の一廃でも事業活動に伴って排出されるもの(事業系一般廃棄物)は同じく排出事業者が処理責任を負っています(これを「排出者責任」といいます。)。
このため,排出事業者は,処理を委託した処理業者が廃棄物を不法投棄してしまうと,不法投棄された廃棄物を改めて処理するよう命じられる可能性もあります(廃棄物処理法19条の5)。不法投棄された廃棄物を改めて処理し,その現場を原状回復するとなるとその費用は莫大なものとなることが予想されます。
また,排出事業者が廃棄物の処理を委託するに際して作成すべき書類に不備があっただけでも3年以下の懲役若しくは300万円以下の罰金又はこれらの併科という刑罰が科されたりもします(同法26条1号)。
このように,特に排出事業者においては,自らコントロールできない処理業者の不正や,処理業者が用意してくれた委任契約書やマニフェストの書式に不備や記入漏れにより,思いもよらないペナルティが課されるのです。

■廃棄物処理法の具体的な違反事例
以下に具体的な違反事例を挙げます。

〇無許可営業
産業廃棄物の収集運搬及び処分の許可を受けていない業者が,豆腐製造時に排出される「おから」を産業廃棄物ではない(有価物)として,これを安価に引き取り,加熱処理して飼料・肥料を製造していた事例で,無許可営業として有罪とされた判決があります(最高裁判決平成11年3月10日~おから事件~)。
この判決で,裁判所は,産廃のうち,廃棄物処理法2条4項,同法施行令2条4号にいう「食料品製造業…において原料と使用した動物又は植物に係る固形状の不要物」とは,その物の性状,排出の状況,取扱形態及び取引的価値の有無から排出事業者が有用物として取り扱わず,有償で売却できないものとして扱う物をいい,「おから」は,かつては肥料として利用されてはいたが,現在は肥料としての有効性の問題があり,通常は無償で牧畜業者に引き取ってもらうか,有償で産廃業者に処理を委託しているから,産廃に該当するとしました。
このように,そもそも産廃なのか有価物なのかが判断が,産廃の収集運搬及び処分の無許可営業となるか否かの分かれ道となる例があります。
産廃業者が許可外の廃棄物の処理をした場合の行政処分は事業の許可の取消しとされ,また,産廃処理の無許可営業の刑事罰は,5年以下の懲役若しくは1000万円以下の罰金又はこれらの併科とされており,格段に重い刑罰が科されます(廃棄物処理法25条1項1号)。

〇不法投棄
島根県のビジネスホテルの運営会社の社長が,内装工事で出た建設廃材である石膏ボードの処理費用を安く上げようと,これを地下室に保管させたところ,地下に流れ込んだ雨水と反応して有害な硫化水素が発生し,近隣を通行中の8人に被害を発生させた事例で,不法投棄で懲役2年4月,執行猶予3年,罰金150万円とされた判決があります(松江地裁判決平成21年3月10日~東横イン松江駅前事件~)。
石膏ボードは,建材として広く利用されていますが酸欠状態で加水されると有害な硫化水素が発生するため,管理産業廃棄物とされており,その処分費用は高額となります。本件は,この処分費用削減のために,ホテルの運営会社が産廃を自社の管理下に「保管」していたことが不法投棄とされた事案ですが,同社の社長が陣頭に立って組織的に不法投棄をしている点,硫化水素ガスで複数のけが人が出た点から,かなり重い判決となっておrます。
なお,本件は産廃業者による不法投棄の事例ではありませんが,一廃業者,産廃業者のみならず排出事業者のいずれについても,不法投棄をした場合の刑事罰は5年以下の懲役若しくは1000万円以下の罰金又はこれらの併科とされております(廃棄物処理法25条1項14号)。

〇委託基準違反
製紙会社=排出事業者の環境担当者が,古紙再生過程で発生する廃棄物を,産廃の収集運搬・処分の許可のない業者に処理を委託し,当該無許可業者が山林にこれを不法投棄したため,無許可業者の代表者が無許可営業及び不法投棄で逮捕されただけでなく,排出事業者の環境担当者も委託基準違反で逮捕された事例があります。
排出事業が,産廃の収集運搬や処分を,許可を受けた産廃の収集運搬事業者・処分事業者その他の環境省令で定める者以外の者に委託した場合は委託基準違反となります。
産廃業者の委託基準違反の行政処分は事業の許可の取消しとされ,また,委託基準違反一般の刑事罰は5年以下の懲役若しくは1000万円以下の罰金又はこれらの併科とされております(廃棄物処理法25条1項6号)。

〇委託基準違反及びマニュフェストの記載義務違反
産廃処理の許可を受けている建設会社が,工事で排出されたアスファルトがらを産廃の収集運搬の許可を有するが,産廃の積替え,保管についての許可を得ていない業者にその積替え・保管・収集運搬を委託し,その際,「数量」と「処理年月日」の記載のない産廃処理票(マニフェスト)を交付したことがマニフェストの記載義務違反に該当するとして,産廃処理業の許可が取り消された事例があります。
産廃業者の委託基準違反の行政処分は事業の許可の取消しとされ,刑事罰は5年以下の懲役若しくは1000万円以下の罰金又はこれらの併科とされております(廃棄物処理法25条1項6号)。
また,産廃業者のマニフェストの記載義務違反の行政処分は事業の停止30日間とされ,刑事罰は1年以下の懲役又は100万円以下の罰金とされております(廃棄物処理法27条の2第1号)。本件は,重い方の違反の行政処分が適用され,許可の取消しとなった事例です。

〇再委託基準違反及びマニフェストの虚偽記載
排出事業者から廃プラスチック類の運搬及び処分の委託を受けた産廃処理業者が,自らはこれを処分せずに無許可の処理業者に処分を再委託し,排出事業者から交付された産廃処理票(マニフェスト)には,処分終了年月日欄に(まだ受け入れた廃プラスチック類の破砕処理が終了していないのに,)マニフェストの交付日の日付を記載し,最終処分を行った場所の欄に自社の名称を記載し,当該マニフェストを排出事業者に送付したことにより,事業の停止及び処理施設の使用停止の処分を受けた事例があります。
先述のとおり,産廃業者の委託基準違反の行政処分は許可の取消しですが,処理施設の設置者の委託基準違反の行政処分は処理施設の許可の取消しとされ,刑事罰は5年以下の懲役若しくは1000万円以下の罰金又はこれらの併科とされています(廃棄物処理法25条1項6号)。また,
また,産廃業者のマニフェストの虚偽記載の行政処分は事業の停止30日間とされ,刑事罰は1年以下の懲役又は100万円以下の罰金とされていますから(廃棄物処理法27条の2第1号),
若干軽めの処分で済んだということができます。

以上のように,一廃・産廃を問わず廃棄物の処理業者(収集運搬業者・処分業者)は,廃棄物処理法違反によって事業の許可・処理施設の許可の取消しや事業の停止・処理施設の使用停止といった行政処分が課され,また,別途,懲役・罰金という刑罰が科されることになります。
そして,行政処分としての許可取消しを受けると処理業者としての欠格事由となり,違反をした事業所・処理施設以外の全事業所・全処理施設の許可が取り消される結果となります。
許可取消しを受けなくても,役員,従業員が例えば廃棄物処理法の他,浄化槽法,大気汚染防止法その他の環境法違反で罰金以上の刑を受けた結果,両罰規定により法人にも罰金刑が科されますと,やはり廃棄物処理業者としての欠格事由となり,全事業所・全処理施設の許可が取り消される結果となります。

このため最優先の課題は,廃棄物処理法に抵触しないようにコンプライアンス体制を確立する以外にはないのですが,万が一廃棄物処理法又はその他の環境法違反で摘発された場合,
行政処分を軽減するために,事後的にでも有利な情状を積み上げて,行政当局に積極的にアピールする(このことは,刑事処分にも影響する。)。
違反を実行した当事者である従業員等について不起訴となるように弁護活動を展開する。
従業員等が罰金刑以上に処せられることが決まったら,両罰規定により法人が罰金刑に処せられないように(不起訴となるように)徹底的な弁護活動を展開する。
という対応が不可欠となります。
特に,行政当局へのアピールとしては,
ⅰ)営業者(法人にあっては役員)の関与が殆どなく,かつ,違反を防止できなかったことについて過失がないと認められること。
ⅱ)他に違反がないこと
ⅲ)或いは,反省の色が顕著であること
ⅳ)具体的な改善措置を自主的に行っていること
を積極的に主張することが必要です。
このような対応を適時効果的に実行するために,弁護士に依頼する必要性があるのです。

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三堀 清

(みほり きよし)

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私どもは、一般民事・刑事事件の分野並び企業法務及び取引に関する分野での経験に裏打ちされた専門性と新しい法律問題にも斬新な手法をもって挑戦する柔軟性を武器に、迅速な対応により、依頼者の方々に結果をもってお応えすることを使命として、日々実務を通じた研鑽を進めております。

所属
  • 第二東京弁護士会
経歴
  • 昭和32年 生まれ
  • 昭和56年 早稲田大学法学部卒業
  • 昭和60年 司法試験合格平成8年
  • 早稲田大学大学院法学研究科(企業法務専攻)修了
  • 平成9年 港区新橋に三堀法律事務所設立
  • 平成14年 三洋投信委託㈱(現プラザアセットマネジメント㈱)監査役就任(平成16年まで)
  • 平成15年 千代田区有楽町に事務所を移転
  • 平成17年 ㈱ニチリョク監査役就任(平成29年まで)
  • 令和6年 三堀法律事務所が丸ビル綜合法律事務所と合併

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